#7 世代の断絶を超えて―インゴルドが描く「ともに歩む」未来

今回は最近読んだティム・インゴルド『世代とは何か』の読後レポートを書きました。世代について考えることで、社会構造を対立するものから協調するものへと変容させ、持続可能にするヒントとなりそうです。

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世代の断絶を超えて―インゴルドが描く「ともに歩む」未来

現代社会では「世代間格差」や「ジェネレーションギャップ」といった言葉が日常的に使われ、まるで異なる世代は分かり合えない存在であるかのように語られています。しかし、人類学者ティム・インゴルドは著書『世代とはなにか』で、こうした固定観念に根本的な問いを投げかけています。

現役世代の支配という盲点

インゴルドが指摘するのは、現在の社会構造における「現役世代の支配」です。働き盛りの世代が社会の中心となり、高齢者は「引退すべき存在」、若者は「教育されるべき存在」として影響力を発揮できない環境にされている(周縁化されている)現状を、彼は鋭く批判します。

現役世代の支配を緩めることであると私は主張したい。現在、世界制作の任務から排除されている若者と高齢者がもう一度協働して、集団的な生の条件を築くことができる社会を、はたして私たちは思い描くことができるだろうか?

この問いかけは、私たちが当たり前だと思っている社会構造が、実は一つの選択に過ぎないことを示唆しています。

伝統を「後ろ」ではなく「前」に置く

特に興味深いのは、インゴルドの「伝統」に対する見方です。一般的に伝統は「過去のもの」「乗り越えるべきもの」と捉えられがちですが、彼は異なる視点を提示します。

前を向いて伝統とともにやっていくことは、別のものを約束してくれる。それは、想定された終わりに収斂していくものとは違って、それ自体の中に永遠の約束を含んでいる未来を開くことである。

ちょっと難解な文章ですが、伝統を私たちの「前方」に置き、先祖とともに未来に向かって歩むという発想は、単なる懐古主義とは正反対の、持続的な未来観を示しています。

「アーカイブ」から「アナーカイブ」へ

インゴルドは、従来の知識保存方法を「アーカイブ」と呼び、これに対置する概念として「アナーカイブ(an-archive)」を提唱します。アーカイブが過去を記録として保存するのに対し、アナーカイブでは「下のほうにあるものが過去でなく、未来に向かうにつれ表面に浮き上がってくる」という逆転した時間感覚を持ちます。

これは、本を読むときのように未来が浮かび上がってくる様子や、土を耕して表面が地中に、地中が表面に入れ替わる様子に見てとれます。古い建物を壊して新しく建て替えるのではなく、既存の構造を活かしながら新しい用途で再生させる現代の建築手法や、伝統工芸品を日常品として取り入れる生活スタイルにも通じるように思えます。

教育における「アンダーコモニング」

現在の教育システムは、知識を一方的に伝達する「理解(アンダースタンディング)」モデルに基づいています。しかしインゴルドは、これに対して「アンダーコモニング(コモンズを作り出すための教育)」という概念を提示します。

理性の共同体では、発見されるものが新しいものである限り、あなたが誰であるかは問題としないが、反応=可能性の共同体では、あなたが誰であるかが何よりも重要である。

つまり、知識が主体である「アンダースタンディング」に対して、反応(体験)=可能性が主体となる「アンダーコモニング」では、教師と生徒が同じ方向を向いて、ともに未来を築いていく教育であるとします。それは、発見者が誰でも良い理性の知識的世界から、各人の個性や経験を大切にしながら、互いに学び合う関係性を重視する教育のあり方です。

この点はプラグマティズム(実用主義)にも通じるものがあります。

「さらけ出し」から始まる学び

インゴルドの教育観でもう一つ注目すべきは、「さらけ出し」の重要性です。

注意深くなるとは、『みずからをさらけ出すことである』とマシュラインは書いている。

確実性という「化粧板をはぎ取って、純粋の可能性への扉を開く」ことこそが、真の学びの始まりだと彼は主張します。完璧を装うのではなく、分からないことを分からないと認める勇気。それが、新たな可能性を開く鍵です。ハンナ・アーレントが指摘した私的領域の拡大にも関連性が見えます。

生の連続性としての持続可能性

現代社会が直面する持続可能性の課題についても、インゴルドは独特の視点を提供します。

進歩は、道の途中で吐き出された目新しさの蓄積の中にあるのかもしれないが、持続可能性にとって本当に重要なのは、生の連続性である。

イノベーションや技術革新だけでは真の持続可能性は達成できず、「古い小道をたどる」ことで初めて再生が可能になるという彼の洞察は、私たちの発展観を根本から見直すことを促しています。

古い小道をたどることは、地中に埋まる新しさを浮かび上がらせるアナーカイブとも接続します。アスファルトを敷設するような新しさではなく、祖先がたどってきた道を歩き直すことでもなく、新しく歩くことで、埋もれていた新しさが浮き上がり、持続可能になることが生の連続性ではないかと提起しています。

まとめ:世代を超えた対話の復活

インゴルドが描く未来は、世代間の断絶を乗り越え、年齢に関係なく互いに学び合える社会です。現役世代が独占している「世界制作」の権限を、もう一度すべての世代で分かち合うこと。それは決して後退ではなく、より豊かで持続可能な未来への道です。

私たちに求められているのは、「これらの困難を前任者のせいにしてまた同じことを繰り返す羽目に陥るのではなく、今も続く生の対話の中にもう一度、複数の世代を呼び集める」ことかもしれません。世代を超えた真の対話が、新たな可能性を開く鍵となるのです。

Behind the insight

私たちが “もっているものでうまくやる” には、少しずつ自分の世界を広げ、自分自身を理解し、思いがけない組み合わせを試してみる必要があります。これらは、そのプロセスの様子です。

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