もっているものでうまくやる

このニュースレターは、2つの記事が生まれるたびに、不定期でお届けするニュースレターです。予測不可能な時期に、日々の気づきから紡ぎ出された記事が、あなたのもとに届きます。- Do well with what you have.

今回は長いため1の記事のみ掲載します。

Table of Contents

共感は役に立つのか?

なぜ共感?

共感という言葉は多様性という言葉とセットで日常的に触れられるようになってきたと思います。そうした局面にありながら、共感しようと考えていても生理的に受け付けない場合や価値観の対立に見舞われることも増えているのではないでしょうか。

ますます広がりをみせる共感はどうして求められているのか、わたしたちはなぜ共感しないといけないのか。

『21世紀の教育』という本に多くの気づきが書かれていたため、紹介しつつ考えてみました。

より良い生き方

まず始めに、この本を読み終わったあとタイトルだけで内容を判断してしまい、教育に関心がないひとが手に取らないことが非常にもったいないと思いました。教育とは、これからの生き方を教えるものだからです。

それは、私たちがどのようにより良く生きていくか、そして人間としてどう成長し変化していくかについて深い洞察を得ることができる本だからです。

より良い生き方とは、より良い生き方を目指す生き方。トートロジーのようなマインドセットは、目的を見失いがちな変化の激しい現代において有効だと思います。

"知る" とは "行動への準備"

この本で特に心に響く指摘は「他者がどのように感じているかを知るだけでは十分ではない」という点です。

つまり表層的な共感だけでは役に立たないということです。

真の共感とは、知識だけでなく、他者を大切に思い、実際に助けようとする準備ができていることが重要だと説明しています。

私たちの社会では情報へのアクセスが容易になり、様々な境遇や感情について「知る」ことはできるようになりました。しかし、その知識は実際の行動のために得たもののはずです。行動に変換する力が伴わなければ真の変化は生まれません。この本はまさに、知識を行動に変える架け橋の重要性を説いています。

私たちは、行動しないといけないし、行動できるような準備をしていないといけないのです。

この「役に立つもの」への言及は、プラグマティズム(実用主義哲学)との関連も感じさせます。

共感の限界

この本には書かれていませんが、共感しようと思っても難しい場面はありますよね。

生理的な嫌悪感を覚えたり、自分の価値観と相容れない考えに直面したりすることは誰にでもあります。

たとえば自分が強く反対する政治的立場の人の話を聞くとき、あるいは自分の倫理観と対立する行為を擁護する意見に触れるとき、私たちは自然と防衛的になります。この「限界」は単なる意志の弱さではなく、人間の脳が持つ自然な反応です。

しかし、ここで大切なのは、共感とは “同意” とイコールではないということです。

他者の視点や感情を理解することは、その考えを正しいと認めることとは別問題です。実際、最も価値のある共感とは、自分とは異なる立場の人の話に耳を傾け、なぜそのように考えるのかを理解しようとする過程にあると思います。

この本が教えてくれるのは、共感が単なる感情的な反応ではなく、意識的に育てることのできるスキルだということです。生理的な反応や価値観の対立を完全になくすことはできなくても、それらを認識し、その上で他者の立場を理解しようとする姿勢を持ち続けることはできるはずです。

私たちは完璧な共感者になれないし、なる必要もないと思います。

大切なのは、共感の限界を認めつつも、それでも理解しようとする姿勢をとることではないでしょうか。

3つのフォーカスと3つの力

この本には「3つのフォーカス(トリプルフォーカス)」と「3つの力」が提唱されています。この枠組みは、複雑な現代社会を生きる私たちにとって明確な指針となりそうです。

3つのフォーカス

  1. 自身へのフォーカス(Inner Focus) 体調や気持ちの変化などへの気づき:自己認識と自己管理の基盤

  2. 他者へのフォーカス(Other Focus) 人間関係と社会的認識の醸成

  3. 結果をもたらすシステムへのフォーカス(Outer Focus) より大きな文脈と構造的理解

3つの力

  1. 気づく力(Awareness) 自己と周囲の状況を正確に把握する能力

  2. 共感する力(Compassion) 他者の視点や感情を理解し、尊重する能力

  3. 行動する力(Engagement) 共感をもとに関係性を育むための実践力、理解を実践に移す能力

一目見ただけでも、どれもが成熟した大人ですら必要な能力であることは、みなさんの経験でわかると思います。

僕はある時期まで空腹になるとイラつくことを自分で知らず、他者に指摘されて初めて気がついたことがありました。そうした自己観察(Inner Focus)をする時間をもたずに成長したり、あるいは常にテイクケアされた環境で生活していたのかもしれません。

そしてこのエピソードからわかることは、このときの他者は3つのフォーカスと3つの力のすべてを備えていたということです。

相手は私の状態に気づき(Awareness)、私の感情を理解し(Compassion)、その上で適切に指摘するという行動(Engagement)をとりました。

21世紀の教育とは単に知識を蓄えることではなく、自己認識、対人関係、そしてシステムを理解し、それらに対して適切に行動できる力を育むことが、この枠組みでシンプルに示唆されています。

共感は単なる感情ではない

共感という概念は、時として「優しさ」や「思いやり」といった感情的価値として扱われがちです。しかし『21世紀の教育』が示すのは、共感がはるかに実践的で具体的なスキルだということです。

共感とは、自分自身と向き合い、他者との関係を深め、社会システムを理解するために必要な、あらゆる場面で活かせる能力です。それは単なる感情ではなく、行動の基盤となる認知的・実践的なスキルです。

例えば、組織の中でリーダーシップを発揮する場面を考えてみます。メンバーの状態に気づき(Awareness)、その人の立場や感情を理解し(Compassion)、適切な支援や指示を行う(Engagement)ことができれば、チーム全体のパフォーマンスは向上します。これは感傷的な「思いやり」ではなく、実践的な「共感力」です。そしてそこには、他者へのフォーカス、影響を与えているシステムへのフォーカスが必要です。

共感は役に立つのか

共感とは、他者やシステムとの関係性を育むための大切な土台であり、準備です。それは「なんとなく相手の気持ちがわかる」という漠然としたものではなく、具体的な行動に結びつくスキルです。

知識を得るだけでなく、その知識をもとに行動し、変化をもたらす準備をするためには、共感が必要不可欠です。

現代社会が複雑化し、多様な価値観が対立する場面で、共感は「あればいいもの」ではなく、社会を機能させるための「必須の要素」となりつつあります。

共感はただの感情ではなく、より良い社会を作るための実践的なスキルです。

共感は、私たちは自分自身をより深く理解し、他者とより豊かに関わり、そして社会全体をより良い方向に変えていくことに役立ちます。

Behind the insight

私たちが “もっているものでうまくやる” には、少しずつ自分の世界を広げ、自分自身を理解し、思いがけない組み合わせを試してみる必要があります。これらは、そのプロセスの様子です。

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