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#11 2025年のベストコンテンツ
今回は年間ベストをお届けします。年間ベストって1位を決めないと思い込んでいたけれど、よかったと思ったものを全部並べればいいじゃんと思ったのでツラツラと書きました。
Table of Contents
Book: 『世代とは何か』Tim Ingold
世界が未来を向いてしまったことで、時代はその不確実さを取り込んでしまった。過去と再び向き合うことで、安定した世界を築けるのではないかという試み。
共通点がなくとも一緒に進む道を探す「アンダーコモニング」、過去のものを過去に押し留めておくアーカイブではなく、過去のものを未来に向かって置き直す「アナーカイブ」など時間の流れを捉え直すことに恐れず立ち向かっている。いま住んでいる町では図書館や本屋の利用が便利ではないので、年始にドカッとまとめ買いしてみたら、いつでも自分が関心があるものを手に取れる状況がつくれて精神が安定した。自分に必要なのはそのアクセシビリティで Ezio Manzini にならえば近接性の高さだった。
自分の思考に近いもの、似ているものが周りにあるというのは安心を生み出して、都会にはそういう意味での安心感があるのだと思った。
読んだ本でよかったものを並べてみてら、大きなシステムと日々の暮らしの接続というのを意識して読んでいたのが見えてきた。
Music: 『LUX』Rosalía
クラシックに発想を得た、クラシック音楽とストリートカルチャーの完全な融合。真に新しく、ラディカルで荘厳な輝き。 とにかく美しく壮大だ。LUX - つまり光そのものであり、その言葉の通りとてつもない輝きを放っている。このアルバムはロザリア以外の誰にもつくれなかったし、つくったとしてもそれが聞かれることもなかっただろう。彼女の知性、教養、経験、内に秘めたもの、技能、技術、そのほかの全てがこの1枚に結実している。
大袈裟ではなく、10年代を代表したフランク・オーシャン『Blond』のように、20年代を代表するアルバムとして語り継がれる。
日本人の音楽家たちが果敢に新しい環境でチャレンジした様子がたくさん見えた。(当然見えないところで多くのひとがチャレンジしているわけですが) しかしながら、出されたものとこちら側の期待が一致しないどころか、超えてもこないと感じてしまったことが何度かあった。
1月15日にリリースされたこちらの作品は、2025年がそんな気分になることなんてお構いなしに、軽くて爽やかに披露され(隠されている思想は粘性の高い沈んだものだが、それも ZINE という形で軽快に提示している)、過剰な刺激に溢れているいまでもなお新鮮さがある。
小袋成彬がロンドンに住んでいる意味、日本人であること、ミュージシャンとして活動することの意義を感じ、日本語だからこそ、日本文化がルーツにあるからこその意義を感じる作品だった。特に M3 Shiranami は日本語の響きの美しさを堪能できる、ことし1番のトラックだ。
小袋成彬はそのあと、さいたま市長選挙に出馬をするなど、自分がなすべきことを考え抜いて行動し続けている。
オーディオコンテンツが本当に増えすぎていて、音楽を聞く機会をほとんどなくしているので、この機会に Spotify から Apple Music に切り替えたりした。Spotify と比べて Apple Music はレコメンド機能が弱く感じるが、ラジオ機能というストリーミングしっぱなしのサービスがあるので、それはそれで面白い。思想が違うので、機能も違うという当たり前のことを思った。
年の後半に自分のお気に入りのアーティストの作品がリリースされて、それを聞いたりしたくらいで発見みたいなのはあんまりなかったな。
Podcast: コクヨ野外学習センター
コクヨと黒鳥社のポッドキャスト。更新は止まってしまっているが、いま聞いても気づきがあって面白い。
ポッドキャストの記録をちゃんとしていなかったのでほとんど忘れてしまったが、ことしの前半にPanoramatiks の齋藤精一と黒鳥社の若林恵のメタバースえとせとらを聞いて、若林恵に劇ハマりして、コクヨ野外学習センターにたどりついた。
暇というのが日の出ている間のこと、Recreation をいま使われている余暇ではなく、Re-creation という意味の再創造としてとらえなおせないかなど、日常的なものへの見方を問い直すようなエピソードにたくさん触れられた。
Movie: 『天気の子』新海誠
自分の能力を役立てなくていい、不確実でも自分の選択を尊重していい、そんなメッセージを2020年代に向けて発信した傑作大した量を見れていないのでなんともですが、この作品は良かった。公開された当時、結構批判されていた気がしていたので以外だったが、まあ当時に見たら同じ気分になったかもしれない。NewsLetter でこの作品の何がいいのかを書いたりした。
NewsLetter: #10 壊れた世界で自分の幸福を選ぶことは身勝手なのか
映画館に行けないことがこんなにも悔しく思った初めての年だった。新作映画であれば、ほとんど配信されるのでそんなにヤキモキしないのだけど、『PERFECT BLUE』『天使のたまご』『落下の王国』と立て続けに4K上映をされてしまってはたまったものじゃない。
もちろん周りでそんなことを嘆いているひともいないわけで、文化的孤立という言葉が適切なのかはわからないけど、とにかく見に行けないことが悲しかった。
もちろん10時間の往復と数万円の航空券を買えば見れるので、そのくらいの気合いがないということでもある。
Show: 『ストレンジャー・シングス』S5
この作品は最初から最後まで、愛するひとを守るために全てを投げ出すひとたちと、誰にも守ってもらえないからと全てを手に入れようとするひとの愛の物語だ。シーズン5では、ついに弱いもののために立ち上がった人たちが、かつて守ろうとしたひとに助けられる。愛の物語だ。なんて陳腐な表現なのかしらとも思うが、この作品は間違いなく愛の物語だ。立ち向かえないものに立ち向かえるとき、勇気がない時に勇気が湧いてくるとき、そこには必ず愛が現れる。グロテスクな能力に世界が脅かされそうになるとき、守りたいものがあることはとにかく強力なのだ。
ロビンがラジオで捲し立てた「ホーキンスは世界にここだけ」という言葉は、もちろん世界征服をたくらむヴィクナとの対だけど、世界の同質化が進んでいる現代へのカウンターでもある。
ファイナルシーズンにふさわしい幕開け。このまま最後まで僕らを連れて行ってほしい。
2023年の作品で、ケン・リュウの短編が原作のアニメ。いま見ても、というか、いま見るからこそ響くものがある。
人間の意識をコンピューターにアップロードした世界を描いた作品は『順列都市』で確立された古典的SF設定であるが AGI という言葉が日常会話でも出せるようになった現在、知性がコンピューターをつかうのではなく、コンピューターそのものが知性になった世界はどうなるのか。
知性があつかいきれない技術が存在し、それを実行できてしまう知性があるときに、世界ができることはあるのか。 SF のようで、ほとんどAGIのシミュレーションにも見え、人類を超越した知性が世界に入り込んだら、世界の方を止めざるを得ないよなと思う。
ストーリーの下地にある生命の本質はなにか、心の結びつきの描写などもこのアニメに厚みを加えている。
YouTuber
ことしはあまり新しくハマったひとはいなかったが、以下の3人のものはよく見てました
keke_films 都内在住 30代のフリーランサー、背伸びしてない様子と編集の小気味よさが心地良い。Bookish なのも個人的に良い。
旅暮らしのナナワッティ 夫婦で世界旅行中。旦那がビデオグラファーかつ世界旅行中経験者なので、映像が美しいのはもちろん、地理情報もたくさん入ってきて面白い。パートナーの陽気さも楽しい。
chrismeetschris どうやらカフェオーナーのようだけど、ビデオエッセイでほとんど毎日投稿。こんな感じでカジュアルにやる YouTube も楽しそうだなと思ってよく見ている。
私たちが “もっているものでうまくやる” には、少しずつ自分の世界を広げ、自分自身を理解し、思いがけない組み合わせを試してみる必要があります。これらは、そのプロセスの様子です。もっと楽しみたい方は Podcast や Discord に遊びに来てください!Spotify でプレイリストも公開しています。
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