もっているものでうまくやる

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論理的思考や事実を重視する価値観から、感情や主観的な納得が重視される価値観への移行は、予測不可能さが日常となる時代を生き抜くための適切なマインドセットかもしれない。

VUCA と Vibe Shift:すべてが Vibe 化する社会におけるコミュニティの形

VUCAという時代認識

1990年代、冷戦終結に伴い、アメリカ軍は核抑止を前提とした戦略から、先行きが不透明な状況への対応へと戦略を転換した。そこで生まれたのが「VUCA」という概念である。これは以下の4要素の頭文字を取った言葉で、激しい変化の中で未来が見えにくい状況を表現している。

  • Volatility(変動性):変化の速度と規模が予測不能

  • Uncertainty(不確実性):過去の経験が未来予測の役に立たない

  • Complexity(複雑性):問題が複雑に絡み合い単純な解決策がない

  • Ambiguity(曖昧性):「正解」が存在せず、解釈が多様化する

この概念は当初軍事用語だったが、現在ではビジネスから社会学まで幅広い分野で使われ、現代社会の本質を捉える枠組みとなっていて、もはや VUCA 時代と呼んでもいいかもしれない。

Vibe Shift とは

2022年頃からアメリカを中心に使われ始めた「Vibe Shift」は、文化的な雰囲気や傾向が急激に変化する現象を指す。特にファッション、音楽、アート、社会的態度などにおける集合的な感覚の変化を表している。簡単に言えば、「何が COOL で何がそうでないか」という社会的合意が突然変わる現象。

しかしVibe Shiftの本質はより激しい

  1. ポストトゥルースの文脈:客観的事実よりも主観的意見や感情が重視される時代の流れと共鳴する概念

  2. 価値観の流動化:論理的思考や事実よりも、感情や雰囲気を優先する姿勢へのシフト

  3. デジタル時代の加速:ソーシャルメディアの普及によって文化的変化がより速く、より顕著に感じられるようになった社会状況の反映

VUCA と Vibe Shift の共振

VUCA と Vibe Shift は単なる時代の偶然の産物ではなく、互いに強く共振し合う現象と考えられる

  1. 予測不能性への適応

    未来が不透明な時代において、固定的な価値観や行動様式は機能しにくい。そのため、場面ごとにVibe(空気感)で適応し、自分の感情やパフォーマンスを最大限に発揮できるマインドセットが有効になる。

  2. 努力の意味の変容

    VUCA環境では、真面目に考え行動することが突然無意味になる事態も起こりうる。従来型の努力が無駄に感じられる中で、Vibe に乗った柔軟な対応が重視される。

Vibe Shift がもたらす体験の孤立

VUCA 時代における体験は、それぞれの Vibe や時々の文脈が常に変化することで、より個人的でパーソナルな体験になっていく。たとえば、同じライブに参加しても、一人は SNS で共有するため、もう一人は純粋に音楽を楽しむため、という異なる文脈で体験しており、その体験自体は個別化されてしまう。

さらに問題なのは、たとえ体験が共有されたとしても、いまは深い理解を伴う「娯楽」ではなく、一時的な「気晴らし」が求められる傾向があるため、共有された体験は Vibe として消費されるだけになる。たとえば、友人の旅行体験を Instagram で「いいね」するだけで、その背景にある感情や気づきについて対話することはほとんどない。

あるいは、話題の映画について「面白かった/つまらなかった」という表層的な感想だけを交換し、その作品が提示する問いや自分との関係性について深く語り合うことは少なくなっている。このような共有によって、孤立感は強化されていく。

この孤立感をやわらげるためには、他者の体験を単に「いいね」で消費するのではなく、「なぜそう感じたのか」「それはあなたにとってどんな意味があったのか」といった対話を通じて真に理解し合うコミュニティがより一層重要になる。オンライン読書会や特定の価値観を共有するコミュニティなど、表層的な Vibe の消費を超えた深い対話の場が、VUCA 時代の孤立感をやわらげるのではないか。

VUCA 時代における茶室的役割の再評価

茶室は戦国時代に生まれ、単なる美的空間ではなく以下の特徴があった

  • 混沌とした時代における秩序と安定の象徴

  • 新しい価値や答えを生み出す創造の場

  • 対話を通じて関係性を深める外交・政治の舞台

戦国時代とVUCA時代は、ランダム性とカオス性が増大する環境という点で類似し、両者とも混乱の中から新たな秩序や方向性を見出す必要に迫られる。茶室が政治的・外交的交渉の場であったように、VUCA時代においても対話や協働の重要性が増し、多様な人々との交流を通じて複雑な問題に対処するコミュニケーション能力が求められるはずだ。

ギルドは VUCA 時代の茶室

試行錯誤のうえで戦国時代に茶室が生まれたように、Vibe Shift は柔軟に生きるための適応で、混乱の中に秩序を提供する空間や関係性を創造する集合的な模索に見える。

激しい変化の中での秩序には、アイデンティティを確認し、共有できるギルド的な場が有効ではないか。

ギルドの二極化

仮にギルド的なコミュニティが流行するとしたら、それは二極化し、そのどちらか、もしくは両方を Vibe で行き来するようなライフスタイルになるかもしれない。

「貢献できるひと」のギルド

これはコミュニティに価値を提供できる人のみが参加できる選別的な集団。たとえば NIGO が立ち上げた「オツモセンター」は、そのコミュニティらしさを体現するクリエイターしか参加できない。「オツモ」が「私たちらしくあり続ける」という意味を持つことも象徴的だ。

そうした流れへの適応として、個人のフリーランス化が進み、タレントのような職種でも、自分のアイデンティティを確保できるコミュニティに貢献できるクリエイターやファウンダーとしての活動を志向するようになるのではないか。例としては

  • GILGAを立ち上げたドナルド・クローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)

  • 映画やドラマ制作へ主軸を移すアベル・テスファイ(The Weeknd)

  • オーガニックブランドの立ち上げや農業に進出した佐藤えり(ローラ)

「貢献できないひと」のギルド

そうした場を見つけられない場合は参加型のギルドに参加する

  • サブスクリプション制のオンラインサロン

  • 共通の価値観に基づくコミュニティ(DAOなど)

  • ローカルコミュニティへの回帰(厳密にはギルドではないが、地元志向や実家依存など)

これらの空間では、参加後に自分の居場所や役割を見つけていくことも許される。

New Era is Vibe Era

すべてのことがすべての場所で同時に多発する時代は、混乱と秩序が常に共存する予測不可能な環境となるが、私たちは Vibe によってそれを乗りこなしていく。

その結果、体験の孤立が進行し、経験を共有できない個人はさらに孤立するため、自分らしくいられるコミュニティが渇望される。そのために必要なのは他者の経験を消費するのではなく、他者と対話する態度である。

VUCAの時代における茶室のような空間を作り、激流の中のギルドを築くことが Vibe Shift がもたらすプロセスなのかもしれない。

Behind the insight

私たちが “もっているものでうまくやる” には、少しずつ自分の世界を広げ、自分自身を理解し、思いがけない組み合わせを試してみる必要があります。これらは、そのプロセスの様子です。

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